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夫の知らないあたし Page2

last update Petsa ng paglalathala: 2026-02-11 10:59:18

 ――オフィスへ戻ると、あたしは仲間たちの目を憚って大智と繋いでいた手を解き、二人で社長室に入った。

 サポートデスクの椅子に座ると、まずはコスメのポーチを取り出し、大智のいる前でコンパクトを開いて口紅を直す。彼とのキスを隠すように。

 午後からも午前と同じような仕事をこなしつつ、午後から出勤してきたメンバーを大智に紹介してもらった。

 この会社のスタッフは正社員ばかりかと思っていたら、学生のアルバイトスタッフも何人かいるらしい。でも、みんなあたしよりパソコンやタブレットをバリバリ使いこなしていて、何だか置いてけぼりを食らったような気持ちになる。若いっていいなぁ……。二十代前半と後半じゃ、どうしてこうも違うんだろう?

 ……と、そうこうしているうちに時刻は三時半になっていた。

「……大智、あたし、そろそろ帰らないと」

 少々名残なごり惜しく、この会社のボスに声をかける。

 覚えたい仕事はまだまだいっぱいあるけど、あたしは一応主婦である。帰ってから家事もやらなきゃいけないし、夫の帰りに間に合わせて夕食の支度もしないといけない。

「そっか、もうそんな時間か……。分かった。里桜、初日
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  • 幸せになりたくて…… ~籠の中の鳥は自由を求めて羽ばたく~   エピローグ Page3

    「……そうだ。この子の名前、考えてやらねえとな」「名前ならもう決めてあるよ。自由の〝由〟に〝羽〟で〝由羽〟」「由羽?」「うん。この子にはあたし以上に、自分の人生を自由に羽ばたいていってほしいから、その願いを込めたの」 間違ってもあたしみたいに、好きになった人の手を離さないように。周りの環境に振り回されないように、自由な人生を歩んでいってほしい。 子供の名前は、親がいちばん最初に贈るプレゼントだ。あたしがこの子に贈りたいのはその願いだけ。「……うん、いい名前じゃん。里桜とおんなじくらい、いい名前」 よかった、大智も気に入ってくれたみたいだ。あたしの名前を決めた時の父も、きっとこんな気持ちだったんだろうな。「でしょ? 由羽、ママですよー。これからよろしくね」「由羽、パパだぞー。生まれてきてくれてありがとな。――里桜、頑張って産んでくれてありがとう」「ううん。大智こそ、あたしに由羽を授けてくれて、あたしを幸せにしてくれてありがと。愛してるよ」「うん、オレも里桜のこと愛してる」 これからどんなことも三人で……ううん、まだ増えるかもしれないけれど、遠回りした分うんと幸せを積み重ねていこう。 だってあたしはもう、籠の中の鳥なんかじゃない。自由に羽ばたいていける。大好きな人の|

  • 幸せになりたくて…… ~籠の中の鳥は自由を求めて羽ばたく~   エピローグ Page2

       * * * * ――それから二ヶ月後。すでに大沢姓になり、お腹も大きくなって胎動が分かるようになってきたあたしに、思いがけないある朗報が舞い込んできた。 この頃、〈Oプランニング〉ではルナちゃんがリーダーとなって、新たな事業としてアプリを配信することになり、あたしもそれに携わっていたのだけれど。「…………ん!? 出版社からメール……、何だろ?」 オフィスで仕事中、あたしのスマホに届いたのは「あなたが投稿サイトに連載していた小説を、ぜひ当出版社で書籍化したい」という知らせだった。 趣味程度に投稿していたあのTL小説はすでに完結していて、さて次はどんなのを書こうかと構想を練っているところだった。「……ねえ大智、これ、あんたが何か関係してる?」 今日は社員たちのワークスペースで仕事をしていた夫(!)に、あたしは訊ねてみる。 あたしや〈田澤フーズ〉の経営権を取り戻していた両親にはそんな繋がりなんてあるわけがない。でも、顔の広い大智になら……。 でも、彼は「いや?」と首を横に振った。「オレにも出版社とのコネなんかねえよ。つうかオレじゃなくて、飯島さんじゃね?」「ああ~……、あり得る」 あたしと大智の大学の先輩である飯島弁護士は主に企業法務を担っていて、顧問を務めている企業も数多い。その中には出版社が含まれていても不思議じゃないかも。

  • 幸せになりたくて…… ~籠の中の鳥は自由を求めて羽ばたく~   エピローグ Page1

    「――里桜、元ダンナに言いたいこと全部言ってスッキリしたか?」 汐留のマンションに帰るクルマの中で、運転席の大智に訊ねられた助手席のあたしは「うん」と大きく頷いた。「今思えば、ウチの親子三人、何であんな人たちにヘコヘコ気を遣ってたんだろうって。ほんとバカみたい。あー、スッキリしたぁ!」 借金苦からも、藤木家との柵からも解放されて、あたしはやっと自由と本当の幸せを手に入れることができた。 これからは大智と、生まれてくるこの子と一緒に自分の人生を生きていけるのだ。「すぐには正式に籍を入れられるわけじゃないけど、とりあえずもう、あたしたちは〝夫婦〟ってことでいいよね? 大智」「ああ。……あ、そうだ。里桜、オレのバッグの中見てみ?」 ちょうど信号待ちに引っかかったタイミングで、大智はあたしが預かっている斜めがけバッグへ顎をしゃくった。「……? うん」 何が入っているのかと首を傾げながらファスナーを開け、中を探ってみると、ラッピングされた小さな箱が手に触れた。「大智……、これって」「里桜、二十六歳の誕生日おめでとう」「…………え、そっち?」 あたしは思いっきりツッコんでしまった。 確かに今日はあたしの二十六回目の誕生日だし、彼がちゃんとプレゼントを用意してくれていたのは嬉しい。嬉しい……けど、この箱の形状はどう考えたっ

  • 幸せになりたくて…… ~籠の中の鳥は自由を求めて羽ばたく~   夫(あの人)にさよならを Page2

       * * * * ――翌日は朝食を済ませてから、あたしと大智は彼のクルマで赤坂のマンションへ行った。 「……う~ん、住んでた時は立派なマンションだと思ってたけど。いざ離れてみたら大したことなかったんだなぁ、ここって」 住人でなくなった今、訪問者の目で見た感想はそんなものだ。少し大きいだけでごくありふれたオートロック付きのマンション。それを立派だと思っていたのは、少なからず藤木家の権威を感じていたからかもしれない。「確かに、ウチのマンションとそんなに変わんねえよな。住み心地はどうよ、里桜?」「もちろん、今大智と一緒に暮らしてるあのマンションの方が断然いいよ。やっぱり、好きな人と一緒っていうのが強みかな。もちろん、間取り的にもそうなんだけどね」「だろうだろう。今オレの仕事部屋にしてるあの部屋もな、いずれは片付けてちゃんと使えるようにするつもりだから。将来的に子供部屋とか」 大智はあたしのお腹に目を遣りながら言う。〝子供部屋〟とかサラリと言えてしまうところに、あたしや生まれてくるこの子との将来を真剣に考えてくれているんだなぁと嬉しくなる。 ――持っていたカギでオートロックを抜け、最上階までエレベーターで上がり、ペントハウスにあたる元住まいのドアノブを回してみると。「……開いてる。あの人、いるみたい」「インターフォン、鳴らしてみるか?」「いいよもう。開いてるなら入っちゃおう?」 ただ置いてある荷物を引き取りに来ただけだし、別にコソコソする必要もない。堂々と上が

  • 幸せになりたくて…… ~籠の中の鳥は自由を求めて羽ばたく~   夫(あの人)にさよならを Page1

     ――翌週からあたしは正樹さんと五ヶ月間暮らしたマンションを出て、大智と同棲を始めた。 妊娠も三ヶ月目に入り、お腹の赤ちゃんも順調に育っている。大智の会社での仕事もバリバリこなし、産休を取得する八ヶ月までは働けるまで働くつもりだ。いざとなったらリモートによる在宅勤務という手もあるし。 ただ、両親を原告とする訴訟も始まるなど周りが何かと忙しすぎて、あの部屋に置いたあたしの荷物はそのまま引き上げられていない。とりあえず、当座の生活に必要なものは持ち出せたけれど――。「――里桜、明日あたり休みだし、向こうのマンションに荷物引き取りに行くか? オレも付き合うし」 オフィスで仕事をしていると、大智が思いっきりプライベート全開の調子で言った。今日は金曜日で明日からは週末だし、確かにちょうどいい機会ではあるけれど。 まだあの人が離婚届を役所に提出したという話は耳に入ってきていないので、あたしは今のところ人妻のままである。同僚のルナちゃんはあたしと大智の関係を知っていて協力してくれているけれど、他のメンバーもみんな知っているとは限らないのだ。迂闊な言動はやめてほしい。「ちょっと大智、会社でそういうプライベートな話は――」「飯島先輩から聞いたけど、もう離婚成立しそうなんだろ? だったら堂々としてればいいんじゃね?」「えっ、そうなの? あの人、離婚届出す気になったんだ?」 さすがはあたしの離婚問題と両親の訴訟、両方に関わった弁護士先生だ。そんなことまで知っていたなんて。「らしいな。つうワケで、どうするよ?」

  • 幸せになりたくて…… ~籠の中の鳥は自由を求めて羽ばたく~   対決 Page9

       * * * * あたしはそのまま実家まで飯島さんのクルマで送ってもらえることになった。「――飯島さん、今日はホントにありがとうございました」 クルマの中で、あたしは先輩にお礼を述べた。やっぱり法律の専門家が味方についていてくれると心強い。「いやいや。可愛い後輩が困ってるんだから、力になってあげたかったしな。大智の頼みでもあったし」「こんなに頼もしい先輩を持てて、あたしも大智も幸せ者です。先輩がいて下さらなかったら、この子の親権まであっちに取られてたかもしれませんから」「それは大丈夫。妊婦が離婚した場合、お腹の子の親権は母親が持つことになってるから。向こうに親権をよこせと要求する権利はないよ。父親が夫じゃないならなおさらね」 「ああ、よかった! あたし、それだけは絶対に渡さないつもりだったんで。――でも、夫婦がそれぞれ不倫してたわけじゃないですか。その場合ってどうなるんですか?」 あたしは別に慰謝料を請求するつもりはない。ただ、あの人たちにはこれ以上、あたしの幸せを壊されたくないだけだ。父への貸し剥がしの件では社会的制裁を受けることになるので、それだけでも十分、あの親子を痛めつけることができる。 ただ、あたしが慰謝料を請求されたら……? それは非常に困る。大智との結婚や出産や、これからの生活には何かとお金が必要になる。だからといって、あの人たちに出させるつもりはないけど。「どちらも不貞行為を行っていたなら、条件はイーブン。この場合、不貞行為は相殺されるからどちらも慰謝料は請求できなくなるね。里桜ちゃんは別に慰謝料が欲しかったわけじゃないんだろ?」「ええ。『慰謝料代わ

  • 幸せになりたくて…… ~籠の中の鳥は自由を求めて羽ばたく~   夫の知らないあたし Page3

       * * * * ――今日は筆の進みがよく、夕方五時ごろから書き進めて一時間くらいで二千五百字も書けた。合間に夕食の下準備を挟んでも、だ。「……はぁ~~っ、書いた書いた! 疲れたぁ」 思いっきり伸びをしていると、玄関チャイムが鳴って正樹さんが「ただいま」と言いながら入ってきた。「あ、帰ってきた。おかえりなさい」 あたしも一応妻らしく、玄関まで出迎えにいく。さすがに三つ指ついて、まではしないけれど(そこまでしてやる筋合いもないし)。「里桜、ただいま。……お前、今日から仕事じゃなかったのか?」「家のことをやるために早めに帰って来たんです。言ったでしょう? ウチの職場はフレックス

    last updateHuling Na-update : 2026-03-22
  • 幸せになりたくて…… ~籠の中の鳥は自由を求めて羽ばたく~   夫の知らないあたし Page4

        * * * * ――就寝前、正樹さんがお風呂に入っている時に大智から電話がかかってきた。ちなみに、あたしは先に入浴を済ませていた。「もしもし、大智? どうしたの?」『里桜、遅い時間にゴメンな。今、話してて大丈夫か? マズかったら明日会社ででもいいけど』「ううん、大丈夫だよ。あの人、いまお風呂に入ってるから」 ……あれ、この感じってなんかいかにもな不倫っぽくていいんじゃない? 夫がいつ戻ってくるかっていうスリルがたまらない!『そっか。じゃあ用件だけ手短に話す。――飯島さんとさっそく連絡取れたから、お前ん家の借金について調べてくれるように頼んだよ。時間かかるかもしれねぇけど

    last updateHuling Na-update : 2026-03-22
  • 幸せになりたくて…… ~籠の中の鳥は自由を求めて羽ばたく~   夫の知らないあたし Page1

     お昼休みはまだ少しある。ということは、もう少し大智と二人きりでいられるということだ。 少し遠回りして会社に戻ろうか、と彼が言うので、あたしは喜び頷いた。 人気の少ない裏路地を通りかかると、不意に彼が「里桜」とあたしを呼び止める。

    last updateHuling Na-update : 2026-03-21
  • 幸せになりたくて…… ~籠の中の鳥は自由を求めて羽ばたく~   元カレとの新しい日常 Page4

    「――はい、みなさん注目ー! 今日からこの会社で一緒に働いてくれる、新しい仲間を紹介しまーす。藤木里桜さんです」 ミーティングルームの一番前に立つよう言われたあたしは、大智に転校生のような紹介をされた。「えっと……藤木里桜です。旧姓は田澤で、指輪は外してますけど一応既婚者です。よろしくお願いします」 あたしがペコッと頭を下げると、平均年齢が低そうな――多分みなさん、あたしや大智と年齢変わらないんじゃないかな、くらいのスタッフのみなさんが盛大な拍手で迎えてくれた。あ、よく見たら四十代くらいの男性もいた。多分、大智が他の会社から引き抜いてきた人だろう。 この会社

    last updateHuling Na-update : 2026-03-19
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